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【疑問】ドイツには学校の部活が無いって本当?

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ドイツ人のスポーツ選手は学校、企業の部活ではなくて、地元のスポーツクラブで練習と活動をしている。

 

僕はドイツに1年ほどいたことは前に書いたけど、1999年3月にドイツ人の家にホームステイをしてドイツ語を勉強した時に、日本とドイツの学生のスポーツ活動の違いについて説明した。

「日本では中学校から大学まで学校の部活でスポーツ、文化活動をします。学校には校歌、校旗というものがあって、学生たちはそれに忠誠を誓う。部活動内では先生、先輩、コーチのような目上の人たちの命令は絶対であって、それに逆らうことはあり得ない。逆らうととても無礼な奴だと見做されて、組織的には軍隊みたいです。基本的に部活は学校の先生が指導をする。これが日本の部活です」

ホームステイ先の主人と奥さん。
「それは、アメリカ型の指導であって、ドイツを始めとするヨーロッパは全く違います。学生は学校の授業が終わった後に学校を離れて、地域のスポーツクラブでスポーツ、文化活動をする。指導はプロのコーチがやり、みんなが友達のような感じで日本のような軍隊式の礼儀、上下関係はない。みんなが自由に活動をする。

ただし、将来はプロのスポーツ選手を目指すサッカー、テニス、スキージャンプなどの体育系のユースチームはすごく厳しい。でも、それは入る方の選手もそれだけの覚悟をして入っている。高校生とかでも上手ならサッカーのブンデスリーガとかでデビュー出来る。有名なテニス選手のボリス・ベッカーは、17歳という高校生の時にウィンブルドンで優勝した。女子テニスプレイヤーのグラフも、19歳の時にオリンピックで金メダルを取った。

 

ドイツの学校には部活どころか校歌も校旗も応援歌もなくて、同窓会などの卒業生が集まるイベントもない。

 

さらに、主人と奥さんの話。
「それで、日本とは違うのは学校には校歌も校旗も応援歌もない。日本のような〇〇高校独特の伝統的な応援(例えば、昔のPL学園の人文字の応援、智弁和歌山の独特な吹奏楽演奏の応援など)とかはない。もちろん、運動をするスポーツクラブにも独特な応援とかいうものはない。だから、生徒は学校、クラブのためにも頑張るとかそういうことは背負わなくていい。あくまでも自分の将来のために頑張って努力をする。学校の名誉と伝統の為にも、応援してくれた生徒たちのためにも頑張るという日本の部活とは、ドイツのクラブ活動は随分と違いますね。」

この2つの学生の放課後の活動、特にスポーツ分野の活動では、日本の場合は「名誉ある学校の先輩たちのためにも、学校の伝統のためにも、応援してくれた仲間のためにも頑張らないといけない」というのがあるので、かなりこれが重荷となっていると思う。甲子園で校歌を歌って喜んでいる高校生がいるが、ドイツの学校は校歌も校旗もないからドイツ人にはそういう感覚がわからない。ドイツ人の留学生が日本の大学に留学して来ても、「早稲田大学対慶応大学の野球は伝統的な試合なので、特別に盛り上がる」と教えられてもよくわからないし、そもそもドイツ人は野球には興味がないので、応援に行かない人が多いらしい。それどころか、早稲田、慶応とかに留学していても校歌、応援歌には興味がないのでそれらを覚えようとしないらしい。

それで、甲子園で校歌を歌うのを日本人は美談とするが、もう何かそういうことは時代遅れだからどうでもいいと思う。学校の部活で重荷になるのは、自分の将来以外にも学校の名誉と伝統のためにも頑張らないといけないことだ。ドイツではそういうことはないので、単純に自分の将来だけを考えて頑張ればいい。

 

真夏の暑い時期に行われる高校野球のような部活の大会は、ドイツでは絶対に行われない。

 

先にも書いたように僕がドイツ人の家庭にホームステイしていた時に、

「日本ではサッカーよりも野球の方が人気があり、野球ファンの中にはアマチュアである高校野球の方が好きな人もいます。でも、高校野球は6月末から8月末という約2か月の間に4千試合を行うという日程なんです」

と教えると家族は、

[Verruecktes Termin!](いかれた日程だ!)

と言って呆れた顔をしていた。

家族「それで、高校生の選手たちはそれで満足しているのか?そんないかれた日程に不満な高校生はいないのか?」

僕「高校野球はもう80年(当時の時点)も続いている伝統的な行事なので、不満を言う高校生はあまりいません。むしろ、”美しいドラマだ”とか思っている人が多いです。それで、部活では先輩と先生が絶対的な力を持っていて、下級生は黙って従うしかないんです」

「なんだか、日本の部活動での運動は何も不満が言えなくて厳しいようだね。もしもドイツでそんなに厳しいスポーツクラブとスポーツ大会があったら、若者たちは誰も参加しないよ。スポーツクラブではみんなが友達で楽しくプレイするべきだよ。たしかに、ドイツでも将来はプロ選手になるためのサッカーのバイエルンユースチームとかあるけど、そういう厳しいスポーツクラブは例外だね」

 

こういうドイツを始めとするヨーロッパのスポーツ事情を見ても、学校と企業の体育会系部活でスポーツをプレイするというのは、限界があるとわかると思う。僕は部活でのスポーツ活動を批判しているが、特に学校の部活というのは学校の先生が教師業をする合間に部活の指導をするので、どうしても中途半端な指導しかできない。一方、ヨーロッパのサッカージュニア・ユースチームなどは、プロのライセンスを持った指導者が指導するので、スポーツクラブを指導することに専念している。教師が片手間で指導する部活動とは大違いだ。

 

ドイツの地域クラブには文系活動、遊びのクラブという気楽に参加できるものもある。

 

私がシュツットガルト近くのドイツ人家庭にホームステイをしていた時に、そこのご主人と長男は毎週金曜日の夜に地元のカードクラブでSKAT(スカート)というカードゲームを数時間、近所の方々とプレイをして遊んでいた。面白そうなので、スカートのゲームのルールはわからなかったが、近所の人々とも交流したいと思ったのでそこに行ってみた。そのスカートゲームをするのも「ドイツ・スカートカードゲームクラブ」という全国的な組織があって、「〇〇(ホームステイしていた町の名前)・スカートカードゲームクラブ」に近所の人たちは登録していて、みんなでお金を出し合ってクラブを作ってプレイをしているのだった。面白かったのは、そこには第二次大戦の時にドイツ兵だったおじいさんが2人いて、僕が日本人だとわかると「昔の同盟国の人だ」と言って、とても嬉しそうに話しかけてきた。ビール、アイスなどをおごってもらったこともあった。

 

これ以外にもドイツには、HOゲージ(レールの幅が1.6センチ)の鉄道模型クラブ、アニメ愛好会クラブ、コスプレ愛好会クラブなどもあって、趣味が同じ人たちがみんなでお金を出し合って活動するためのクラブを作っていて、学校と仕事が終わると集まるようにしている。これも上に書いた「ドイツ・スカートカードゲームクラブ」のような全国的な組織があって、他のドイツ国内のクラブと交流できるようになっている。日本でもちょっと悪名高くて知られているのは、乱暴なサッカーチームのサポータークラブ、つまり「フーリガン」であり、この中でも特に乱暴で悪質なクラブに入っていると、サッカーチームと協会からマークされてスタジアムへの出入り禁止などの処分を受ける。

 

日本でも不登校、引きこもりなどの対策として地域に密着したクラブが必要だと思う。

 

とにかく、ドイツだけでなくて多くのヨーロッパ諸国では運動だけでなくて色んな分野でのクラブ活動が盛んなので、例えば、仮に学校でいじめられたとしてもクラブ活動という居場所があるので、「引き籠り」になる人は少ない。日本の場合だと多くの学生にとっては学校と家しか居場所がないので、学校でいじめにあうと家に引き籠ってしまうケースが多い。だから、引き籠りを防ぐためにも、ヨーロッパのようなスポーツ、趣味などの活動クラブを作ることが必要だと思う。僕が知る限りでは最近は日本でもネットの普及のお陰で、趣味が同じ人たちがオフ会を年に数回開いて集まったりしているが、これは孤独な人でも居場所が出来てとても素晴らしいことなので、こういう活動をどんどんと広げるべきだと思う。

 

写真上はドイツでもとても人気があるサッカーの日本国内のクラブ活動のイメージ。ドイツでは学校には「サッカーなどの運動部の部活動はなくて、地元のクラブチームでプロのライセンスを持ったコーチの指導で練習をする。日本でもJリーグのクラブチームのユースチームとジュニアチームが増えていて、そこで練習してプロのサッカー選手を目指す人が増えているが、ドイツではこういう制度を既に100年ぐらい前から続けている。当然ながら、日本のような高校の間で争う「全国高校サッカー選手権」というものはないので、「母校のために戦う」という考えはない。代わりに、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)が主催する「U18ヨーロッパ選手権」などの年齢で区切るヨーロッパ選手権があって、これにプロサッカー選手を目指す子供たちは参加して自分のプレイをアピールをして、プロチームのスカウトも若い才能のある選手を探す。

 

写真下はドイツブンデスリーガに所属するプロクラブチームである、シャルケ04のジュニアチームで練習する子供たち。写真のように親たちが見守る中で練習していて、親とコーチたちはよく会話をしている。この写真は僕が2012年10月に現地で撮影した。
ジュニアチームとユースチームで良い結果を残すと、高校卒業の時にはクラブとプロ契約を結べる。有名なアルゼンチン人のメッシ、日本人の久保のように才能がある子供だと、16歳の時にプロ契約を結んでもらえることもある。

 

 

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以上、今日はドイツでは学生たちは学校の部活動でスポーツ、文化活動を行うのではなくて、学校の授業が終わったら地域のクラブでスポーツ、文化活動を行うことについて記事にしました。ドイツでは日本のように、学校の名誉と栄光のために愛校心を持って活動をする学生はいないことを知ってもらいたいのです。それに、学校の先生が学校評価を上げるために、生徒に強制するような形で部活に入ることを強要することもありません。