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「ドイツ人はなんで残酷なことをしたのですか?」ドイツ人は残酷なのか?

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1999年春にシュツットガルト近郊に住むドイツ人家族にホームステイした時に、最後の晩に「日本人の中には、『ドイツ人はなんで残酷なことをしたのですか?』と質問する人がいる」と夫妻に言った。

 

すでにこのブログで何度も書いたが、僕は1999年春にシュツットガルト近郊に住むH家という、ドイツ人の家族にホームステイしながらドイツ語を勉強したことがあった。語学留学であり、実際に勉強したのはそこの家族ではなく、シュツットガルト市内の語学学校に通学したのだった。ホームステイの期間が終わり明日は日本に帰るという前夜、5月だったので近所で行なわれていた”Fruehlingfest”(春祭り)に家族の人達と一緒に行って、家に帰ってきてから主人と奥さんと酒を飲みながら話をした。


主人が僕に、
「Gさん(僕のこと)、日本に帰ったら、家族、友達にドイツであったことをどういうふうに話しますか?」
と当然ながら質問した。普通の日本人なら笑顔を浮かべて、
「ドイツ人はみんな親切で、ドイツも素晴らしい国で・・・」
と言うのだろうけど、僕は学生時代、現代史、特にナチス・ドイツの研究をしていたので、率直な意見を言ったのだった。
「そうですね。日本の友達と知り合いに『ドイツに行って、多くのドイツ人と話をしてきた』と言うと、何人かの日本人は必ず、『ドイツ人はどうしてあんなに残酷なことをしたのですか?ユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストの映画、ドキュメントを見たことありますが』ということを質問するんですよ」

この僕の発言を聞くとすぐに夫妻そろって興奮した口調で、
[Nein! Die Grausamkeiten sind da in der Tiefe, alle Menschen! Nicht nur Deutsche]
「違う!残忍性というのは全ての人間の奥底にある!ドイツ人だけではない!」
と大声で言ったのだった。そして、主人は、
「残酷なことといえば、南アフリカのアパルトヘイトでオランダ系白人が人種差別を長年していたり・・・」
と言い、奥さんは、
「『戦争中にユダヤ人の強制収容所で囚人を虐待していた元SS将校が、50年以上経ってようやく裁判にかけられた』ということを、この前、ラジオのニュースで言っていた」
と言ったのだった。

僕はこの2人のかなり興奮した状態を抑えようと、
[Gaaaaanz gleich, gaaaaanz gleich waren Japan und Deutschland!]
「日本とドイツは一緒だった、全く一緒だったんです!」
と叫んだ。さらにこう言った。
「その50年以上も捕まらなかった元SS将校というのは、恐らく連合軍と取引をしたのでしょう。日本軍にもそういう軍人と政治家はたくさんいます。有名なのは、中国人、朝鮮人、ロシア人捕虜などを使って人体実験をした石井軍医中将の731部隊です。彼らは戦犯として裁判にかけれると覚悟していたそうですが、米軍が『731部隊の実験データを我々に渡せば、お前たちは全員無罪放免とする』と提案したので、731部隊の隊員はデータをアメリカ軍に渡し、戦後も自由人として生活しました。そして、アメリカ軍はそのデータを基に、ベトナム戦争で使用したのです」

 

「第二次大戦後に東西冷戦が始まったので、利用価値のあるドイツ人と日本人は戦争犯罪人なのに連合国の判断で無罪放免になり、利用価値のない人たちは有罪となって辛い思いをした」という事実を、主人はよく知っていた。

 


この話を聞くと主人はニコリと笑い、ドイツでもV1、V2ロケットを発明して、ナチス親衛隊将校待遇だったブラウン博士とそのチームが、どう考えても戦犯だったのに処分されず、それどころかアメリカの宇宙開発計画のトップとして迎えられ、豪華な生活をアメリカで送ったという話をした。そして、
「小さな戦犯は利用価値がないから裁判の後に処刑されたが、大きな戦犯はアメリカとソ連の間の東西冷戦で利用価値があったので、米ソ両陣営で奪い合いになったのだよ」
と言った。全くそのとおりである。これについては、ウィキペデイアで「ペーパークリップ作戦」を調べればすぐにわかるだろう。

「でも、やはり、“ドイツ人は戦争で残酷なことをした”、“第一次大戦、第二次大戦を始めたのはドイツで、2回とも負けたのはドイツだけ”というイメージが日本では強いので、ドイツに来る日本人観光客はそんなに多くないです。日本人はヨーロッパ旅行というと、ロンドン、パリ、ローマに行く人が圧倒的に多いです。ドイツ旅行というと、ロマンチック街道、ライン川下りツアーに参加する人がほとんどで、シュツットガルトに来る人は残念ですがそんなにいないです。」
ということを僕は夫妻に言った。

「日本人がナチスドイツを非難すると同盟国だったので、全部がブーメランになって帰ってきてしまうから、僕は絶対にドイツを非難しない。日本とドイツはこれからも仲良くするべきだ」と言うと、夫妻は喜んでいた。

 


さらに、次のようなことも言った。
「まあ、確かにホロコーストは大罪であり、殺されたユダヤ人など人たちは可哀想だと思いますが、僕が知る限りではドイツ人だけが特別に残酷ということは絶対にありません。それは、つまり、普通の人間がナチス政府の宣伝工作、教育などで洗脳されて、強制収容所看守の親衛隊員のようになってしまったのでしょう。こういうことを言うと、僕の友達から、『あいつ、いつもドイツ軍とヒトラーの弁護をしてやがる。お前はそんなにナチス・ドイツが好きなのか?』という悪口を言われることもありますが、それでも、僕は日本の同盟国だったドイツ軍の弁護を止めるつもりはありません。多くの日本人はヒトラーに最後まで忠実だった親衛隊員と、普通のドイツ市民を徴兵して組織されたドイツ国防軍の兵隊ととの区別がつきませんが、僕はそれについても日本人の友達に教え続けます」


これを聞くと、夫妻は嬉しそうに笑ったのだった。夫妻はともにドイツ兵の息子と娘であり、主人の父は1945年1月にポーランド戦線で戦死していて、主人は父を知らずに生きてきたのだった。だから、僕がホームステイの初日に、
「僕の母も3才の時に戦争で父を亡くしたので、父をほとんど覚えていないそうです」
と言うと、夫妻はものすごく同情してくれたのだった。


ホームステイ先の家族は毎週金曜日に、近所の人達20人ぐらいと一緒に、地元の小さなサッカーチームのクラブハウスでカードゲームをしていたのだが、そこの会場にはいつも元ドイツ兵のおじいさんが2人来ていた。そのおじいさんたちは僕が日本人だとわかるととても親切にしてくれた。まさか、その方々に、
「なんでユダヤ人をあんなにたくさん殺したんですか?」
などと質問できるワケはないだろう。(苦笑)



何度も書いているように、僕はヒトラー、ナチス党とそれらに忠実だった一般親衛隊には興味はないが、徴兵されて兵隊となったドイツ人を非難する気にはなれない。それ以外にも、ロンメル、シュタウフェンベルクといった反ヒトラー派の将校も非難できない。日本とドイツは同盟していたので、ナチスドイツを非難するというのは、それは同盟していた日本にブーメランとなって帰ってきてしまうので、大日本帝国時代の日本人を非難しいているのと変わらないだろう。これは恐らく僕のように、タイガー戦車、メッサーシュミット戦闘機などが好きなドイツ軍ファンの共通の思いだろう。

 

これからドイツに留学する人は、第二次大戦時の日独同盟のことをよく知っているべきである。 これは「ドイツ留学ガイド」という本にも書いてある。

 

僕の個人的な考えだが、ドイツに長期間、勉強、仕事などで滞在する人々はある程度、ヒトラーのナチス政権、ホロコーストについて前もって学習するべきだと思う。日本人がナチス、ホロコーストについて何も知らないと気付くと、ドイツ人の中にはすごくガッカリする人もいる。これは、「ドイツ留学案内」などの本にも書いてあることである。

 

 

写真上はナチスドイツ時代に初めて作られた強制収容所である、ダッハウ強制収容所の跡地に立つ記念碑。ダッハウはミュンヘン近くにあって鉄道でのアクセスもよいので、僕も1999年春に語学留学をした時に行ったことがある。しかし、雰囲気がとても暗くて居心地が悪いので、2時間ほどしか滞在できなかった。でも、ドイツに興味がある人は一度は訪れるべき場所だと思う。

 

 

写真下はベルリン中心部に建つホロコースト犠牲者の追悼記念碑。この記念碑はベルリンの国会議事堂、政府の建物のすぐ近くにあり、日本でいうと東京の霞が関辺りに建っている。ベルリン中心部にこの記念碑を建てることには反対の意見もあったが、ドイツ政府の左翼政治家の意見が通って建てられた。

 

その下の写真は、ベルリン南部のツオッセンにあるドイツ国防軍最高司令部を第二次大戦前に訪れた、日本陸軍の将校とドイツ軍将校の記念写真。日本とドイツが同盟関係にあったことがよくわかる写真である。写真前列の中央に写っている小柄な日本軍人が当時の駐ドイツ大使だった大島浩陸軍中将であり、その左隣の長身のドイツ軍人は後にスターリングラード攻防戦のドイツ軍指揮官で、ソ連軍に包囲されて降伏したパウルス元帥(写真が撮られた当時の階級は大佐)である。下の2枚の写真は、僕が2006年夏にベルリンに行った時に撮影をした。

 

 

最後に、僕のブログを訪れてくれてありがとうございます。この記事のようにドイツにいた時に多くの人と交流した時の体験談以外にも、ドイツで10試合ほどブンデスリーガの試合を観戦していて、ドイツサッカーが好きな方に対して色々と興味深いブログ記事を書いているので、時間があったら他の記事も読んでみてください。感想のコメントを書いてもらうと嬉しいです。ドイツ語の勉強の方法、ナチスドイツ軍に関する記事も書いてますし、これからもそういう記事を書いていきます。

 

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