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上島嘉郎の「日本の勝算と山本五十六の罪」はおかしい

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元「正論」編集長の上島嘉郎が、「経営科学出版社」のネット上での動画配信で主張しいている「日本の勝算と山本五十六の罪」という太平洋戦争に関する意見があるが、これを見た感想は結果論を述べてるだけのとんでもない意見としか言いようがない。

 

 「経営科学出版社」が配信元で上島嘉郎元産経新聞「正論」編集長が主宰している「ライズアップジャパン」という第二次世界大戦関係の動画で、「日本の勝算と山本五十六の罪」というものがある。リンクを貼ろうと思ったけど、上手くいかなかったので、「経営科学出版、上島嘉郎 ライズアップジャパン」というワードで検索してもらいたい。この動画内で、上島嘉郎が近現代史研究家の林千勝と対談していかにも正論らしく言っている意見は、あまりにもくだらなくて呆れてしまう。写真上は太平洋戦争開戦時に連合艦隊司令長官だった山本五十六。何人かのジャーナリストと歴史家が山本を「愚将」と批判してるが、どの意見もおかしな点がある。

 

動画には「日本は定石通りやれば勝っていた」と、戦後にアメリカの陸軍長官が述べていたことまで紹介している。その意見というのは次のとおり。

「日本海軍はアメリカとは開戦せずに真珠湾攻撃をやらずに、イギリス(マレー半島、ビルマ、インドを植民地にしていた)とオランダ(インドネシアを植民地にしていた)だけと開戦をして、シンガポールを占領した後に南雲機動部隊がインド洋の制海権を握って、インド洋に連合艦隊の主力を集めればよかった。海軍の支援があれば陸軍はインド全土を占領できたはずだ。そして、インドを占領して北アフリカにいるロンメル将軍の率いるドイツアフリカ軍団と協力して、イギリスを追いつめるべきだった。

 

山本五十六が真珠湾攻撃を行って、アメリカを怒らせたことが大失敗だった。真珠湾攻撃がアメリカを怒らせてアメリカ国民の意見を参戦に変えたのだから、真珠湾攻撃を決めた山本五十六と彼の参謀が馬鹿だった」
こういうことを述べている。

 

「日本が第二次大戦に参戦した時に真珠湾攻撃を行ってアメリカとは戦わずに、イギリスとオランダだけと開戦すればよかった。これなら、日本軍はイギリス軍に勝ってインドを占領できたはずだ」という意見だが、日本軍は中国戦線で苦戦していたのに、インド全土を占領するなんて絶対に無理に決まってる。

 

 

この上島の意見は少し第二次世界大戦の歴史に詳しい軍事マニアなら、単なる結果論であって実際には実現不可能であることはすぐにわかるだろう。そもそも「ハルノート」を突き付けて、日本軍に中国からの撤兵を迫っているのはアメリカ政府とルーズベルト大統領であり、イギリスは日本には何の要求も出してない。英首相のチャーチルはルーズベルトに「ナチスドイツの同盟国である日本を挑発して、戦争に参戦するようにほしい」と要求していたが、チャーチル自身は日本には何も言ってない。

 

それに、もし日本がイギリスと戦争を始めた場合にはイギリス連邦の加盟国であるオーストラリア、ニュージーランド、カナダとも戦争状態になるのであって、これらの国と太平洋で戦うことを覚悟しないといけない。だから、海軍の主力をインド洋だけに向けることはできない。そして、アメリカは仮に戦争に参戦しないとしても、イギリス連邦の諸国に武器を貸与することはできたり、基地を提供することはできるからやはり厄介な存在になる。

 

さらに、日本陸軍にも致命的な欠点がある。それは補給の軽視である。旧帝国陸軍は「輜重兵(輜重とは補給のこと)は兵隊ではない」という補給部隊を軽視しており、これが日中戦争でも日本陸軍が苦戦する原因となっていた。仮にインド本土に日本陸軍が海軍の支援を受けて上陸しても、インドが第2の中国戦線になるのは必至であり、中国とインドという2つの泥沼戦線になって最終的には敗退するに決まっている。日本の国力では日本から当時のインドの首都であるデリーまで補給線を維持することなどできるはずがない。

 

それ以上は仮想(火葬)戦記の世界になるからどうなるかわからないけど、絶対に最終的には超大国アメリカが連合軍側で参戦して負けるに決まっている。だから、どう考えても日本軍が米英軍と戦って勝つ公算はない。基本的に近現代史では米英がずーっと仲が良いので、米英と戦争をして勝つことは無理なのである。

 

この経営科学出版が配信元の上島嘉郎が配信している「ライズアップジャパン」という動画は、第二次世界大戦の歴史をほとんど知らないネトウヨ向けのくだらないもので、「大日本帝国陸海軍はこんなに強かった」という勘違い洗脳動画としか言いようがない。子供の頃から第二次世界大戦の戦記を読んでいて詳しい者としては、こういう動画を見ていると吐き気すらする。

 

こういう本、動画というのは倉山満の「負けるはずがなかった!大東亜戦争」と同じような「トンデモ本」であり、一部の右翼読者の支持を獲得して売れればそれで充分なのだろう。「仮想戦記」と同じようなものである。

 

こういう本、動画というのは、いわゆる「トンデモ本」と言われるものの一つであり、多くの歴史家とは違う意見を述べて興味をひこうというものだと思う。これについては、僕は過去にブログ記事に書いたことがある。

 

deutschland-lab.hatenablog.com

例えば、第二次世界大戦の戦争犯罪について日本の左翼知識人がよく言うように、「ドイツはよく戦争犯罪を反省しているが、日本は全く反省してない」という本を書けば左翼思想の日本人は喜んでこの本を買うだろうが、AfD(ドイツのための選択)という右翼政党が台頭しつつあるドイツの現状とは全く違うので、こういう本も「トンデモ本」になる。そして残念なことに、複雑な歴史と今の政治状況を冷静に詳しく説明している本よりも、こういう極端な「トンデモ本」の方がよく売れる傾向にある。

 

 

以上、今日は正論の元編集長である上島嘉郎が、経営科学出版社配信の動画の中で述べてる「日本の勝算と山本五十六の罪」という意見はおかしいというブログ記事を書いてみた。この経営科学出版の動画は、たまに僕のはてなブログに宣伝バナーが出ることがあり、はてなブログのスポンサーの一つであるが、その宣伝をクリックして動画を見た感想を率直に書いてみた。日本には言論の自由があるから、このような現代史に関する意見を述べるのは自由だが、やはり、子供の頃からある程度第二次世界大戦の戦史を読んだ者にとっては、かなりおかしな意見としか言いようがない。