- アメリカ政府は最後に勝った戦争である第二次大戦関連の式典はするが、その後の上手く行かなかった戦争であるベトナム戦争、イラク戦争関連の式典はやらない。
- 辛口映画評論家である田山力哉氏は著作の中で、戦争映画「プラトーン」を非常に高く評価していた。「ベトナム戦争の泥沼の中から、すごい戦争映画が制作された」と書いていた。
- 「プラトーン」を封切りの時に見に行ったが、「コンバット」のように鬼軍曹が部隊を勝利に導くシナリオとは違って、軍曹が住民を虐殺したり友軍相殺をしたりと、明らかに違う感じのハリウッド戦争映画だと思った。
- こういうアメリカ軍批判を書いているが、僕は言論の自由があるアメリカは中国よりかなりマシなパートナーだと思っている。アメリカでは過去の失敗を批判できる自由があるが、中国ではそういうことができない。
アメリカ政府は最後に勝った戦争である第二次大戦関連の式典はするが、その後の上手く行かなかった戦争であるベトナム戦争、イラク戦争関連の式典はやらない。
今は太平洋戦争が始まってから80周年ということなので、マスコミが太平洋戦争関係のドキュメントを作ったり報道をしているが、ちょっと変わった視点から戦争についてブログを書こうと思う。太平洋戦争ではなくてベトナム戦争についてである。アメリカ政府は、最後にアメリカ軍が勝つことができた太平洋戦争については何十年経っても取り上げるが、その後のアメリカが勝てなかった戦争である朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争などについては何の式典も行わないし、政府もあまり大きく取り上げない。これが第二次大戦後のアメリカ政府のやり方である。
辛口映画評論家である田山力哉氏は著作の中で、戦争映画「プラトーン」を非常に高く評価していた。「ベトナム戦争の泥沼の中から、すごい戦争映画が制作された」と書いていた。
僕がハリウッド映画をたくさん見ていた20代の頃に、「アメリカン・ニューシネマ名作全史・2」という文庫本をよく読んでいて、この本を参考にして僕は見る映画を決めていた。著者は辛口な映画評論で有名な田山力哉氏であった。田山氏は、当然、1987年度のアカデミー作品賞、監督賞などの主要4部門を独占した「プラトーン」を、この本の中で取り上げて非常に高く評価していた。
ベトナム戦争の泥沼からすごい戦争映画が制作された。この映画以前のハリウッド映画といったら、「トップガン」「ライトスタッフ」「ロッキー」などのレーガン政権における「強いアメリカの復活」「弱者切り捨て」という政策を反映したような作品とか、ホラー映画とか、仕掛けはすごくて大味なのに内容がない娯楽大作映画が多かった。(恐らく娯楽大作映画というのは、「インディ・ジョーンズ」「ゴーストバスターズ」「ブレードランナー」のような映画を指してると思われる。)
しかし、「プラトーン」は監督のオリバー・ストーン監督のベトナム戦争の実体験を元にしてるだけあって、戦争を非常にリアルに描いた名作である。戦場でのアメリカ軍同士の友軍相殺、ベトナム民間人を虐殺するシーン、ジャングルに喘ぐアメリカの若い兵隊たちなど、とても直視してられないシーンがあった。この戦争映画はベトナム戦争を正面から描いた力作である。ストーン監督は(当時は)まだ新人監督だが、実に素晴らしい戦争映画を作った。
「プラトーン」を封切りの時に見に行ったが、「コンバット」のように鬼軍曹が部隊を勝利に導くシナリオとは違って、軍曹が住民を虐殺したり友軍相殺をしたりと、明らかに違う感じのハリウッド戦争映画だと思った。
僕も映画ファンで特に戦争映画が大好きだから、この映画を1987年春の封切りの時に見に行った。当時は高校を卒業した後の浪人生だったが、現役で大学に合格した高校時代の友人と一緒に見に行った。ネタバレになるが、バーンズ軍曹とエリアス軍曹という2人の経験のある軍曹が、大卒で無能な若い少尉に変わって小隊(プラトーン)を実質は指揮していて、こういうシナリオはハリウッド映画では「コンバット」のサンダース軍曹みたいによくあった。だから、「やはり『コンバット』みたいに2人の軍曹が小隊を見事に指揮して数人の兵隊は戦死するけど、最後は小隊が危機を脱してハッピーエンドなんだろう」と思って見ていた。
だから、バーンズ軍曹がベトナム人の村人を銃で虐殺した時には、「エッ!?」とちょっと声を出して驚いた。「ハリウッド映画では”心優しき鬼軍曹”というお決まりのテーマがあって、鬼軍曹は本当は優しくいい人だから絶対に住民虐殺とか友軍相殺なんてしないんじゃないのか?鬼軍曹がただの怖い鬼だったら、今までのハリウッド戦争映画のパターンが壊れるじゃないか?ストーン監督が作ったこの映画は、明らかに今までのハリウッド戦争映画とは違うパターンの映画だ」と思ってびっくりした。そして、この映画がアカデミー賞の主要4部門を独占したのも当然だと思ったのだった。上の写真が、バーンズ軍曹が村人を虐待するシーン。
その後のハリウッド戦争映画には、「フルメタルジャケット」に出演するハートマン軍曹、「7月4日に生まれて」に出演するトム・クルーズが演ずる若き軍曹のように、怖いけれど任務を完璧に行う心優しき鬼軍曹はあまり出演しなくなった。それどころか、問題が多い士官と下士官が多く現れるようになった。まあ、実際のアメリカ兵にはこういう人がけっこう多いのだろう。
こういうアメリカ軍批判を書いているが、僕は言論の自由があるアメリカは中国よりかなりマシなパートナーだと思っている。アメリカでは過去の失敗を批判できる自由があるが、中国ではそういうことができない。
こんなことを書いているけど、僕はそれほどアメリカが嫌いというわけではない。ただ、ハリウッドがアメリカ軍の後押しを受けて制作する「トップガン」のような国威発揚映画よりも、「プラトーン」のような実戦経験のある映画監督の作った戦争映画の方が絶対に戦争の実態を描いてると思うのである。アメリカには言論の自由があるので、ベトナム戦争のアメリカ軍を完全に否定する反戦映画を作っても、アメリカ人は見にくる。一方で中国では中国軍を否定するような映画は共産党の検閲によって、制作すること自体が禁止である。だから、反アメリカ的な映画制作が許されてるアメリカの方が中国よりはかなりマシである。
しかし、最近はベトナム戦争、イラク戦争などの映画を作ると特に支配層であるアメリカ白人の神経を逆なでするのか、ほとんど作られてない。アメリカ人も最後に勝った戦争である第二次大戦の映画よりも、今起こっている戦争であるイラク、アフガニスタンの戦争を映画化する方が、アメリカ人と世界の人々にとっては重要だと思う。