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労働組合が弱くて労働争議の少ない国、日本

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日本とドイツの労働と労働争議の違いについて書きますが、こういうテーマを書くと、僕のことを“アカ”とみなす人がいるかもしれませんが、やはり、日本のサラリーマン、OLの労働条件改善のために、書いておこうと思いました。ちょっと長文になります。(苦笑)

 

写真上はドイツの労働争議の様子。ドイツのIGメタル(金属産業労組)が待遇の改善を求めて、ストライキを起こしてデモ行進をしている。ストライキとデモは会社のガス抜きになるので、健全な資本主義社会ならあるのが当たり前というのがヨーロッパでの考え方。ストライキとデモがよくあるので、ヨーロッパでは過労死、ブラック企業問題という問題はとても少ない。



今はコロナ流行で多くの企業は業績が悪くて、大量のクビ切りが行なわれているけど、コロナの前からクビ切りは行われていた。大手企業でさえ大量のリストラが行われており、その会社の従業員は、
「まさか、我が社では、そんなことはないだろうと思っていましたが・・・」
と言っているけど、事実、大量リストラになってしまったので本当に可哀想だ。


働きすぎで精神病と体を壊した方の話を聞いたことがあるが、その方の勤務先では労働組合がほとんど活動をしてなかったという。

 

数日前に色んな他業界の人達の体験談を聞くセミナーがあり、行って話を聞いてきた。僕は英語とドイツ語を使って翻訳、留学相談の仕事をしているが、そういう業界しか知らないのでは人生観が狭くなってしまうと思い、同僚数人と行ったのだった。

ある食品業界の方の話はものすごく強烈なインパクトがあった。その方は、牛乳製品(ミルク、バター、アイスクリームなど)を扱う大手企業の下請け会社に大学卒業と同時に入社して、営業の仕事に就かれたのだが、入社して1年ぐらいで得意先100社ほどの担当になってしまい、休日出勤なども常にあり、年間で休めたのは50日ぐらいしかないという過酷な労働をされたという。そのため、当然ながら、10年ほどで体を壊してしまい、30代半ばにはギックリ腰と精神異常で退職せざるを得なかったという。当たり前の話である。

それから、精神科に通院し、心の病の患者のためのデイケア、作業所などの施設に通所する生活が続き、職場に復帰出来るまで10年ほどかかったという。質問もできる時間があったので、僕はちょっと質問してみた。

僕「そんなにたくさん仕事を回す上司に、丁寧に断る方法はなかったのですか?」
その人「『お前の替りなどたくさんいるんだぞ』と言われると、断るのは難しかったです」
「労働組合に相談するとか、何かいい方法はなかったのでしょうか?」
「組合自体がほとんど活動してませんでした。労働争議のような話をすると、上から睨まれてしまうのでね」

その方は今では日曜祝日は休める仕事をしているが、30才の頃までは誰にも相談できず、会社の経営側のいいなりに仕事をするしかなかったので、本当に辛かったという。本当にかわいそうな方である。この人の話に限らず、日本では若い労働者がまだ仕事がよくわかっていない頃に、横暴な管理職の連中からから膨大な量の仕事を回されることがよくある。いわゆる儒教精神、タテ社会の濫用である。このような若い労働者を保護する制度は一応あることはあるが、実際はあまり機能していない。労働者には権利はあるものの、大規模なストライキ、労働者と経営者の衝突というのは、最近ははほとんど起こっていないようだ。


僕の亡くなった父は大卒で大手銀行勤務という”キャリア組”だったが、「企業の毒抜きをするために労働争議は必要だ。労働争議をしないと山一証券みたいに倒産する」という考えだった。

 

 

僕の亡くなった父は大手銀行勤務を経て、かっこ良く言えば“ヘッドハンティング”のような形で、仙台に本社がある建設会社の重役をしていた。その頃によく、
「ロクに仕事もしないくせに、“もっと給料が欲しい”、“労働基準監督署、労働組合に訴えてでも賃金アップを勝ち取りたい”などと言う若い社員が多い。馬鹿どもめ。」
などと、家で焼酎を飲みながらよく愚痴を言っていた。

僕はその頃(1990年代)は、大学を出た後、自分の希望した会社、業種に就職できなかったので、父のコネで父と同じ会社に勤務していた時期もあった。だが、それでも遠慮せずに父に、
「親父の若い頃は絶対に不平不満は言わなかったのか?“管理職にこき使われているから組合に訴えたい”と思ったことはなかったのか?」
と反論した。父は苦笑いして、こう言った。
「・・・まあ、親父が若かった頃はもっとのんびりとしていたよ。就職はけっこう簡単に決まったからな。それに、ベトナム反戦運動の時代で、学生運動、労働組合運動なんかも盛んだったから、いい時代だったかもな。今の若者は可哀想かもな」


父の就職が簡単に決まったというのは、父は東北大学法学部卒業で、大学では体育会系のボート部に所属していたからだろう。父はマネージャーだったが大学にいた当時は、大学内では体育会系部員は扱いがよかったという。国立大法学部卒業と体育会系部活所属という経歴を見れば、大手銀行に採用されたのも当然だと思える。


その後、1997年に山一証券、北海道拓殖銀行のような大企業倒産が相次ぎ、父もこれに関するテレビのニュースを頭を抱えて見ていたことがあった。

そして、
「いかにバブル崩壊とはいえ、なんで、あんな大手が潰れたのかな?本当に理解できない。なんとか潰さずにすむ方法はあったハズだ。100年も続いている名門なんだから」
と嘆いていた。その時に僕はこう父に言った。
「山一証券も拓殖銀行も、労働争議を粘り強くしていれば潰れずにすんだんじゃないのかな?労働組合がストライキを根気強くしていれば、短期間的には損失が出るだろうけど、長期的な目で見れば、会社にとってプラスになったのかもしれない。“横暴な重役が辞めるまで社員は仕事をしない、いいなりにはならない”と訴えていれば、少なくとも倒産にはならなかったのかも」
この僕の意見を聞くと、父の目が輝き出したのをよく覚えている。
「そうだ!そういう手があるな!うん、労働争議で毒を抜けばよかったんだ。“労働組合が強い会社は倒産しない”という神話があるからな。特に、鉄道、運輸、工業などは労組が強いからいつも毒抜きが出来てるから、組織が強いんだ。重役のいいなりにばかりなっているような会社は、ダメになるのは当然だな。それにしても、お前もけっこう賢くなったな」
と言って、父は僕の意見に同意したのだった。

 

ドイツ人家庭にホームステイした時にドイツの労働組合の話を聞いたが、ドイツの労働組合は世界でも有数の強さがあり、特にDB(ドイツ鉄道)は今でも突然にストライキをやることがある。

 

欧米では労働組合の活動はかなり活発だという。僕が1999年にドイツに語学留学して、ドイツ人の家庭にホームステイしたことは既に書いたが、その家の主人はベンツ社の部長という役職にありながら、労働組合(ドイツ語で”Gewerkschaft”)の世話もしていた。その家の人達は、
「我々の労組は世界一強いと言われているんだよ。本当に自慢の組織だよ」
と言っていた。主人は、
「労組がないと、”Arbeitgeber”(管理職)が”Arbeitnehmer”(被雇用者)を乱用する恐れがあるからね。労働組合は本当に重要な組織だよ。日本では労組の幹部は“アカ”と見なされるのか?それは変だよ。確かに労組を始めたのはマルクスなどの共産主義者だけど、今の労組は19世紀、20世紀前半の組織とは違うよ。労働者の権利を守るためにあるんだよ」


ドイツ鉄道(DB。日本で言うならJR)の組合は、多くのストを行なっており、2007年8月~9月頃には給料10%アップという、日本ではあり得ない提案を拒否している。常に絶対に妥協しないようである。そして、今でも突然にDBを始めとするドイツの鉄道会社がストライキをすることがある。

まあ、今の僕の職場は外国人の管理職もいて、ヨーロッパ、アメリカ人の職員もいるので、彼らのことも考えて、幸いそんなにキツイ労働条件ではないですが、大手企業の下請けをしている中小企業の方々の過酷な状況を週刊誌などで読むと、本当にお気の毒だと思うのです。やはり、労働者の権利を守るために労働争議をする必要はあると思います。会社の目的には利益を上げることと同時に、社員を幸せにするということもあるのですから。

写真下は日本の労働争議の様子。日本の労働争議は共産党を始めとする左翼政党活動に利用されることが多くて、自民党などの保守政党支持者は労働争議をしないことが多い。でも、政治主張にかかわらず、自分の労働条件を改善してもらいたかったら、ドイツのように会社内に強い労働組合を組織してもらう必要があると思う。

 

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