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追悼・水島新司先生(2)

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昨日のブログに続いて、今日も亡くなった漫画家の水島新司先生の追悼記事を書こうと思います。僕はあまり漫画を読みませんが、水島先生の野球漫画はほとんど全部を読んだので、子供の頃の思い出がありますから。

 

 

水島新司の漫画が大ヒットをした理由は、本当の野球に型破りなキャラを混ぜたことだろう。関西弁で吠える「ドカベン」の岩鬼、「野球狂の詩」の岩田鉄五郎のようなキャラが、水島漫画がヒットした大きな理由。

 

 

 

水島新司の野球漫画は他の野球漫画に比べるとダントツな人気があったが、その面白さは水島が野球に詳しかったのでストーリーが面白かったこともあるが、一番面白かったのはキャラクターの設定である。「ドカベン」に出てくる主人公の山田太郎と投手の里中はごく普通の高校生だが、その周りのキャラはあり得ないキャラばかりである。たとえば、サードの岩鬼はいつも学生帽を被っていてそれを脱ぐことは絶対になくて、打席に立つ時も学生帽を被っているが、野球のルールで打者として打席に立つ時は、野球帽かヘルメットを被らなければいけない。被らない場合はアウトとなると決まっている。つまり、学生帽を脱がずに打席に立った時点で岩鬼はアウトであり、プレイできないのである。それでも水島は岩鬼のキャラを活かすためにこのルールを無視している。

 

上に貼った漫画は「野球狂の詩」だが、主人公の女性プロ野球選手の水原勇気と並んで主人公級の扱いの、岩田鉄五郎という東京メッツの投手兼投手コーチがいる。彼は漫画では53歳の対阪神タイガースの引退試合の時に、9回を1人で投げ切るが年齢と同じ53点を取られてしまう。そして、球数は1000球ほどを投げる。途中であまりにも可哀そうに思った阪神の田淵、藤田などの主力選手が、「岩田さん、もう無理だ。交代してくれ」と頼むし、メッツの五利監督も「もう交代でいいだろう」と言ってマウンドから降ろそうとするが、岩田はそれらを「じゃかあしいわい!黙っとれ!」と一喝して拒否する。最後には五利監督も阪神の吉田監督も、「鉄っあんの引退試合だから、やりたいようにやらせてやろう」と言って最後まで続投させる。

 

しかし、科学的に考えれば1000球を投げて53点取られるまで投げれる53歳の投手など、この世の中のどこにもいるわけがない。途中で疲労と心臓発作で倒れるに決まっている。2005年に東北楽天がまだすごく弱かった時に千葉ロッテに26点を取られるという試合があったが、53点となるとすごく長い試合になるので、途中で審判が強制的に「コールドゲーム」を宣告するはずである。こういう実際にはあり得ない登場人物とストーリーを、「ひょっとしたら本当にあるのではないか?」と思わせるのが水島新司の野球漫画の面白さである。

 

 

僕は小学生の時に関西の西宮市に住んだことがあるが、流石に岩鬼、岩田のような型破りな性格の人はいなかった。恐らく、水島漫画のせいで関西人はかなり誤解されたかもしれない。

 

 

付け加えるが、僕も兵庫県西宮市に小学生の時に住んでいたことがあるが、岩鬼、岩田のように「じゃかあしいわい!黙っとれ!」などと叫ぶ人には会ったことがない。でも、大阪南部の河内の辺りには乱暴な河内弁でしゃべる人もいるらしい。しかし、水島漫画では岩鬼、岩田のような乱暴で型破りなキャラは関西弁でしゃべるという設定になってるので、絶対に関西以外の人にとっては「関西弁の人たちは、ああいう乱暴な人が多いんだろう」という誤解を与えただろう。確かに関西には反社会勢力も多いし、同和在日などの社会問題も多いが、関西人でも大人しくて頭のいい人もいる。実際に西宮に住んでみてそれがよくわかった。

 

それ以外にも、「野球狂の詩」で高校のソフトボール部の女性投手をプロ野球球団の東京メッツがドラフトで1位で指名して、初の女性選手としてプロ野球にデビューさせるとか、「一球さん」の主人公の真田一球が野球のルールが全くわからないのに、いきなり東京都の野球の名門私立高校である巨人学園の4番を打つとか、「ドカベン」の殿馬の数々の「秘打」など、水島漫画では実際にはあり得ない設定が多い。でも、このようなあり得ない設定と本来の野球をうまく絡ませたから、水島漫画は人気があったのだろう。

 

水島新司の野球漫画は型破りなキャラを混ぜたからヒットしたが、その他の野球漫画で高校野球をほぼ忠実に描いた漫画はあまりヒットしなかった。この理由は映画で人気ある作品も「ターミネーター」「エイリアン」など、SFフィクション映画が多いことを見ればわかるだろう。

 

 

その一方で、野球をけっこう事実に忠実に描いた漫画は水島新司の漫画ほどはヒットしなかった。「あしたのジョー」を書いたちばてつやの弟であるちばあきおの書いた「キャプテン」「プレイボール」という、中学野球と高校野球を描いた漫画もかなり人気があったが、こちらの漫画には岩鬼、殿馬のような型破りな登場人物はいなくて、全員が学生の野球選手らしく丸刈りの髪型であり、けっこう真面目に学生野球を描いた漫画である。岩鬼の悪球打ち、殿馬の秘打のような変わった打ち方をする選手もいない。そのせいか、僕もこれらの漫画がアニメ化された時にテレビで見たが、あまり登場人物のことは覚えてない。それで、調べていて驚いたのだが、作者のちばあきおは41歳の若さで自殺してしまっている。漫画家というのは売れなくなるとほとんど収入が無くなるから厳しい仕事ではあるが、本当に残念である。でも、ちばあきおが亡くなった今でも、「キャプテン」「プレイボール」はけっこう人気がある。

 

あり得ない設定が多くて破天荒な登場人物が多い水島新司の作品と、学生野球をかなり忠実に描いたちばあきおの漫画でなんで差が出たのかというと、漫画ファンならわかると思うが、漫画は娯楽であるのでメチャクチャな話と登場人物が多い方がよく売れるのだろう。ナチスドイツの宣伝大臣だったゲッベルスの言葉に、「大きな嘘にこそ大衆は騙される」、「どんな嘘も百回言えば本当になる」などがあったようだが、やはり、水島漫画のように嘘を交えて野球を描く方が人気が出たのだろう。だからと言って、水島新司がずる賢い人だったというわけではない。だいたい、ハリウッド映画の人気シリーズである「ターミネーター」「ダイ・ハード」「エイリアン」なども、実際にはあり得ない話ばかりである。(笑)