【ドイツサッカー】ドイツ人なら誰もが知っている「ベルンの奇跡」とは何なのか?
「戦後のドイツ史で忘れられない瞬間が3つある。それはベルリンの壁が出来た時と崩壊した時、そしてもう一つはベルンの奇跡だ」とドイツ現代代史家がみんな言っている。1954年のサッカーワールドカップスイス大会で西ドイツは初優勝したのだが、これはドイツ人をすごく喜ばせて勇気づけた。それ以来、ドイツ人はサッカーW杯の時には代表の応援に熱中する。
今までに日本で公開されたドイツ映画の中で一番ヒットをしたのは「Uボート」だろう。だが、ドイツ人の家庭に必ずある映画のDVDというのは2003年10月ドイツ公開のサッカー映画「ベルンの奇跡」である。僕は今までにドイツに1年ほど住んで20軒ほどのドイツ人の家を訪れてけど、どこの家にもこの映画のDVDはあった。「うちの家族はあまりサッカーに興味がない」という家にも、この映画のDVDはあった。しかし、このドイツでは大ヒットをした映画は日本では「ベルンの奇跡」を知っている人が少ないために公開が遅れて、2005年4月になった。それに、公開された時も大して話題にならなかった。
戦後のドイツ復興のきっかけとなった「ベルンの奇跡」とは?
「ベルンの奇跡」というのは1954年に開かれたワールドカップスイス大会で、西ドイツが大会前のの下馬評を覆して優勝したこと。その前の1950年のブラジル大会では日本とドイツは「敗戦国でまだ主権が回復していない」という理由で予選から参加出来ず、特にサッカーが大好きなドイツ人にとっては最悪の屈辱だった。しかも、ドイツは旧西側連合国が中心に建国した西ドイツと、ソ連が建国した東ドイツとで分裂状態だった。後に1961年にベルリンの壁が出来たことで、ドイツは1990年に再統一されるまで完全に分裂した国家になる。
1954年大会の西ドイツはヨーロッパ予選を突破すると、「ドイツは参加しただけで十分だろう」という下馬評を覆して、決勝ではフィレンツェ・プスカシュの率いる「マジャール・マジック」と言われたハンガリーを破って、見事にW杯初優勝を果たした。
ドイツ監督のゼップ・ヘルベルガーはナチスドイツ時代もドイツ代表監督を務めており、「非ナチス化」の審査を経て再びドイツ代表監督になった。ドイツ代表選手の中には元ドイツ兵だった人、ヒトラーユーゲントに所属していた人もいた。その人たちが見事に世界王者になったのだから、ドイツ人は「私たちはナチス時代に国が滅茶苦茶になったが、もう一度やり直せる。もう一度立派な国を作れる」と言って涙を流して喜んだ。事実、戦後のドイツ復興はこの瞬間から始まったと言われている。
【ベルンの奇跡】サッカーワールドカップで初優勝したことが、ドイツ人に大きな勇気を与えた。
西ドイツサッカー代表が優勝した翌年の1955年に、シベリア抑留からの最後の復員兵が帰還した。その後、西ドイツは「奇跡の経済復興を果たして1970年代半ばには世界でトップクラスの経済大国になり、サッカーワールドカップとオリンピックのホスト国にもなった。この辺の経緯は日本とよく似ているというか、全く同じである。「日本と西ドイツの歴史は似ている」というふうによく言われている。つまり、日本ではプロ野球が戦後の日本人の経済復興を後押ししたように、西ドイツではサッカーが戦後のドイツ人の経済復興を後押ししたのである。だから、ドイツ人にとってはサッカー、特に自国リーグのブンデスリーガには、単なるスポーツ以上の大きな意味がある。ブンデスリーガのどの試合のスタジアムもいつも観客で満員なのは、そういう理由がある。
【ベルンの奇跡から約60年】今ではサッカーのドイツ代表は「悪役」と言われるほどに強い。
その後、常にドイツ代表はワールドカップでもヨーロッパ選手権でも強くて、4度ワールドカップで優勝して、3度ヨーロッパ選手権で優勝した。1990年のイタリア大会の時には準決勝でイングランド代表が西ドイツに負けた時に、イングランド代表キャプテンのリネカーはこういうことを言った。「サッカーとは単純なスポーツだ。22人の男たちがボールを追い、最後には必ずドイツ人が勝つ」。ご存じのように、2014年にはホスト国のブラジルに準決勝で7-1で大勝して、決勝ではアルゼンチンに勝って4度目の優勝を果たした。でも、その次のロシア大会ではその勝利の余韻を引っ張りすぎたせいか、ワールドカップ史上初めてグループリーグで敗退してしまった。ドイツが決勝トーナメントに残らなかった大会は、もちろんドイツファンにとってはつまらなかった。
そんなドイツサッカーには絶対にまた復活して、次のカタール大会ではまた「強すぎるドイツ」が見たいものである。でも、前回のロシア大会は例外としても、全世界のサッカー代表チームは、「ドイツに勝つことを目標とすれば、ワールドカップで優勝もできる」と考えているほどにドイツサッカーは強い。
写真上は僕が2005年に高原が所属していたHSV(ハンブルグスポーツ協会)の試合を観戦した時に撮影したもの。HSVのバルバレスがPKを蹴る瞬間。写真下はブンデスリーガ最強チームであるバイエルン・ミュンヘンの本拠地アリアンツアレーナ。
最後に僕のブログを訪れてくれてありがとうございます。ドイツで10試合ほどブンデスリーガの試合を観戦していて、ドイツサッカーが好きな方に対して色々と興味深いブログ記事を書いているので、できれば他の記事も読んでみてください。それ以外にもドイツに滞在していた時の体験談、ドイツ語の勉強の方法、ナチスドイツ軍に関する記事も書いてますし、これからもそういう記事を書いていくつもりです。