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「杉原千畝さんがおばあさんを助けてくれた」というドイツ人女性に会った 

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2006年7月にドイツのハノーファーで、杉原千畝にリトアニアで「命のビザ」を貰ったユダヤ人女性の孫娘に会った 。

 

僕はかつてドイツで、「日本のシンドラー」と言われている杉原千畝に救われたユダヤ人の子孫に会ったことがある。2006年7月にドイツに旅行する前に若いドイツ人女性と現地で会いたいと思い、国際出会い系サイトで若いドイツ人女性を探していると、ある女性のプロフィールに「杉原千畝を知っている日本人男性と会いたい」と書いてあったので、その子とメールを何度か交換して、その子が住むハノーファー駅前で待ち合わせをしたのだった。


彼女は大学生の25才くらいの女の子だった。彼女と会うと、当然、君のおばあさんは本当に杉原千畝から「命のビザ」を貰ったのかという話をした。
「おばあさんはリトアニアにいた時にナチスドイツに追われて、杉原千畝がいる日本領事館に保護を求めて、杉原にビザを貰った。でも、おばあさんは日本には行かずに、その後、ポーランドに行ってレジスタンスと接触をして、それで、彼らにドイツの同盟国の日本入国ビザを渡す代わりに、偽のドイツ人身分証明書を発行してもらった。ドイツ親衛隊の下っ端は厳しく検査をしなかったから、偽の証明書が見破られることはなかった。実際、杉原千畝から命のビザを貰ったけど、日本経由でアメリカまでの旅の経費は自己負担もあったし遠い道のりだったから、リトアニアから日本まで行かなかった人もかなりいた」と言っていた。

 

彼女の家族は既にキリスト教に改宗をしていて、今ではシオニズム(武力によるイスラエル建国)を行っているユダヤ人をすごく嫌っていた。


さらに彼女の興味深い話は続いた。
「今は私の家族は、みんながユダヤ教とは縁を切ってしまった。私もキリスト教徒に改宗したから、ユダヤ教のシナゴーグ(ユダヤ教の教会)には行ってない。ウチの家族はもう宗教とはあまり関係なくて、私も他のドイツ人の若者たちと同じように無宗教という感じ。それに、私の家族はユダヤ系であるという前に他のドイツ人と同じように世界平和を願っているから、アラブ人が自爆テロをするとイスラエル軍が報復でアラブ人地区に爆弾を降らすという戦争行為に嫌気が差して、それで、ユダヤ教からは抜けることにした。第1次から第4次まであった中東戦争にも嫌気が差したと両親は言っていた。今、イスラエル軍がパレスチナでやっていることは、ナチスがやっていたことと全く同じだから、ドイツで普通の生活が出来ている私の家族は、ユダヤ教とイスラエルにはもう関わらないことに決めた。

私の家族はホロコーストに対する恨みを感じてないし、エルサレムに行って「嘆きの壁」に行くつもりもない。別に「嘆きの壁」に行ってユダヤ教の教典を唱えても何も変わらないから。「嘆きの壁」に行ってユダヤ教の経典を唱えることが最高の幸せだ、などと信じているユダヤ教徒はくだらない。日本人も仏教のお経を唱えたからといって、必ずしも幸せになれるわけではないでしょ?」

 

「ナチスドイツ親衛隊がユダヤ人にやっていた迫害を、今はイスラエル軍がアラブ人にやっている。中東で60年も戦争をしているユダヤ人が、嫌われているのは当たり前だ」と彼女は言った。


さらに、彼女は中東和平に取り組んでいたイスラエルのラビン首相が、ユダヤ過激派に1995年に暗殺されたことにも触れて、

「過激なユダヤ人団体なんてくだらない。今ではユダヤ人であることを恥じてユダヤ教徒をやめる人も増えている。ヨーロッパにいるユダヤ人は普通の生活が出来ているから、ユダヤ人であることにこだわっていない」

ということも言っていた。僕は元ユダヤ人の彼女が、「ユダヤ人はナチスドイツ時代にこんなに迫害を受けた」という話をすると想像していたのだが、彼女がした話は「第二次大戦後はイスラエルに住むユダヤ人が、ナチスドイツと同じことをアラブ人にしている」という、ユダヤ人の武力によるシオニズム(イスラエル建国)を非難する話だった。だから、かなり驚いたのだった。


つまり、ユダヤ人の中にも穏健派と強硬派がいて、イスラエル建国にあまり関心がない人、過去のホロコーストにあまりこだわらない穏健派のユダヤ人も増えているというのが現実のようだ。これは日本で発行されている歴史の本を読んだだけではわからないことで、実際にヨーロッパに住むユダヤ系の人たちに質問しなければわからない事実である。僕がドイツのハノーファーで会ったドイツ人女子大生のように、「いくらユダヤ人がホロコーストで虐待されたといっても、武力でのイスラエル建国は間違っている」という意見の人たちも、今では世界中でかなり増えている。

 

 

写真上はエルサレムの「嘆きの壁」で聖典を唱えるユダヤ人達。しかし、僕が会った元ユダヤ人のドイツ人女性は、「『嘆きの壁』でユダヤ教の聖典を唱えても何の意味もない」と言っていた。写真下は僕が元ユダヤ人のドイツ人女性と待ち合わせをして会った、ハノーファー中央駅前広場。19世紀前半のハノーファー王であるエルンスト・アウグスト1世の銅像が立っている。