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ドイツでは洪水はよくある災害で防ぐことはできない


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ドイツ人の家庭にホームステイをして散歩をした時に、近所を流れる川には高い堤防がなかったのでとてもびっくりした 。主人は「ドイツではこれくらいの堤防が当たり前だよ」と言っていた。

 

タイトルの通り、ドイツでは洪水というのはよくある災害である。僕は1999年春に、シュツットガルト近郊に住むドイツ人家庭にホームステイをしてドイツ語を勉強していたが、そこの家族を離れるという日にそこの家の奥さんが新聞を見せながら、「Gさん(僕のこと)、バイエルン州南部は今は洪水で水に浸かってます。飛行機に乗ったらバイエルン州南部をよく注意して見るように」と笑いながら言っていた。旦那さんも「バイエルンでは大雨が降っていたからまた洪水なのか。大変だな」と笑っていた。このように、ドイツでは洪水はよくあることなので、みんな笑って受け止めているくらいである。

 

僕もホームステイ先の家族に着いて初めて近所を散歩した時に、川沿いをホームステイ家族と一緒に歩いていると、近所を流れるエンツ川という川の堤防が異常に低いことに驚いて、「なんで、川の堤防が低いのですか?大雨が降って洪水になったらどうするのですか?」

と主人に質問したことがあった。

「堤防はこれくらいが当たり前だよ。日本の堤防はもっと高いのか?洪水になったら、その時は仕方がないから諦めて高台にある避難所に逃げて、水が引くまで待つしかないんだよ。10年ほど前にすごい洪水になった時には、ここまで水が来たんだ」

と主人は言いながら、近くの中世風の建物の壁に刻まれた印を示した。

それで、その後、ドイツでは大雨の時に川の堤防が氾濫して洪水になることは、毎年どこの州でも必ず1度はあること。だから、ベンツ社の部長をしているH家の主人は洪水でも水が来ない高台に大きな家を買ったこと。また、川沿いの土地は地価が安いけど、洪水の時は水没する覚悟をしないといけないことなどを教えてくれた。さらに、家が水没した人たちは、高台に住む親戚か友達の家に避難する約束をしていることも教えてくれた。

 

「上流のドイツ南部で高い堤防を作ると、下流の国と地域では高さが何十メートルという堤防を作らないといけなくなるので、高い堤防は作ることが出来ない」とドイツ人の友達は教えてくれた。

 


ドイツ国内を流れる大河であるライン川、ドナウ川、エルベ川の川縁を歩いた時も日本のように高い堤防をほとんど見たことがないので、不思議に思って他のドイツ人の友達にも質問してみた。それで、答えはこうだった。

ドイツだけでなくて、ほとんどのヨーロッパの河川はライン川、ドナウ川、エルベ川のように国際河川である。ライン川はスイス、フランス、ドイツ、オランダを流れていて、ドナウ川はスイス、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、ルーマニアを流れていて、エルベ川はチェコとスロバキアからドイツを流れている。ヨーロッパ大陸の多くの川は、日本のように島国の中だけを流れている短くて狭い川ではないので、例えば、スイスでライン川沿いに高い堤防を作ってしまうと、下流のドイツ北西部、オランダなどではスイスの堤防の5倍くらいのすごく高い堤防を作らないといけなくなる。ドナウ川の場合も全く同じことが言える。

 

 

長い距離を流れる大河が多いドイツでは洪水はよくあることなので、洪水と共に生活する工夫をしている。裕福な家庭は川から離れた高台に住んでいる。

 

 

だから、そんなことはどんなに優れた土木技術があっても出来ないので、ライン川、ドナウ川、エルベ川のような大河の場合は多くの遊水地を設けて大雨が降っても洪水になりにくくしている。それでも遊水地でも河川の水が溢れてしまった時は、もう諦めて洪水の水が引くまで耐えるしかない。

だから、裕福なヨーロッパ人は川の近くには住まずに高台に家を建てるようにしているし、あるいは、1階は玄関だけにして応接間などは2階以上に作るようにしている。また、どうせ、洪水で泥だらけになるのでヨーロッパでは畳敷きと障子のある部屋は作られなかったし、全ての部屋には土足で入れるようになっている。つまり多くのヨーロッパの家屋と建物は、始めから洪水で水浸しになることを想定して作られているのである。

また、ヨーロッパにはこういう面白いジョークがある。「オランダと北ドイツには身長の高い人が多いが、その理由を知っているか?」「それは小さい人たちは洪水で溺れて死んだので、身長の高い人だけが生き残れたから」

 

ライン川、ドナウ川などの大河があるドイツ人に言わせると、ほとんどの日本の川は狭くて短いから滝のようなものになるらしい。(苦笑)

 


さらに、多くのヨーロッパ人にとっては日本のような島国を流れる川は「川」というよりも「滝」になるという。これは、もちろん、ライン川、ドナウ川のような国際河川に比べると確かに日本の川は「滝」みたいなものだろう。ヨーロッパの大河は、いつも川の中を多くの大型貨物船と遊覧船が通行しているけど、日本の川では大型船の航行は不可能なのだから。(苦笑)ただし、台風で洪水になった利根川、千曲川、阿武隈川のような日本の大河は「川」と呼べるようだ。

ドイツの川で興味深いのは、ハンブルク、ブレーメンのような港町である。これらの国際的な港町は海沿いにあるのではなくて、最寄りの北海から100キロ以上も遡った所に港町がある。ハンブルクの場合はエルベ川沿いで、ブレーメンの場合はヴェーザー川沿いであり、両方とも中世からのハンザ同盟都市である。なんで、北海沿いに港町を作らなかったのかというと、一つの理由はバイキングなどの敵の襲撃を避けるためであり、他の理由は海沿いに町を作ると強い偏西風などの自然災害から町を守れないからである。


日本でいうなら、利根川は千葉県銚子市で太平洋に注いでいるが、そこから利根川をかなり遡って栃木県南部辺りに大きな港町があるのである。日本では水運技術を発達させてこんな内陸に港町を作ることは出来ないし、別に内陸に港町を作る必要もないだろう。(苦笑)

 

 

写真上は日本の洪水災害のイメージ。日本は狭い川が多いから堤防を作って洪水を防ぐ対策をしているが、ドイツのようなヨーロッパ大陸の国では洪水を防ぐという対策は不可能なので、いかに洪水の被害を少なく抑えるかという対策がなされている。写真下は2013年6月のドナウ川の洪水で、旧市街が床上浸水になったドイツ南部のパッサウの町並み。ドナウ川下りの遊覧船が、旧市街の中に乗り入れてしまっている。このようになってしまったら、水が引くまで待つしかないという。

 

 

最後に、僕のブログを訪れてくれてありがとうございます。この記事のようにドイツ人家庭にホームステイして滞在した時と、その他のドイツ人と交流した時の体験談以外にも、ドイツで10試合ほどブンデスリーガの試合を観戦していて、ドイツサッカーが好きな方に対して色々と興味深いブログ記事を書いているので、時間があったら他の記事も読んでみてください。ブログ記事の感想のコメントを書いてもらうと嬉しいです。ドイツ語の勉強の方法、ナチスドイツ軍に関する記事も書いてますし、これからもそういう記事を書いていきます。

 

 

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