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ドイツではテレビで事件事故の報道を見たことがない

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ドイツのテレビのニュース番組では、日本のように事件事故の報道を見たことがない。多数の死傷者が出た事件事故だけが報道される。

 

僕はドイツに1年ほど住んで、シュツットガルト近郊のドイツ人家族にホームステイしたこともある。その期間にドイツのテレビのニュース番組をたくさん見たが、一度も事件事故の報道を見たことがない。事件事故というのはわかりやすくいうと、A市で殺人事件があってB容疑者がCさんを刃物で刺して殺したとか、D市で交通事故があってEさんとFさんが死亡したとかいう報道である。日本だとこういう事件事故はゴールデンタイムのニュースで個人情報を全部オープンにして報道するが、ドイツではどこのテレビ局のどのニュース番組でも事件事故の報道はしないのである。どうやら、個人情報の問題などがあって、こういうニュースは報道しないらしい。

 

上は1997年6月にドイツ北部、ハノーファーの近くにあるエシェデで起こったICE(日本の新幹線のような高速列車)の脱線事故だが、この事故のように多くの乗客が死傷して国際的に注目された事故だけがニュースで報道される。この時は当時のコール首相も現場に駆けつけて、事故に巻き込まれた方々を励ました。

 

 

ドイツの事件で国際的にも有名になり、日本でも詳しく報道されたものでは、2009年にドイツ南西部のシュツットガルト近郊にあるヴィネンデンという小さな町で起こった、「ヴィネンデン銃乱射事件」がある。この事件は銃マニアの高校生が、自分が通う実業学校で銃を乱射して15人を殺害したものである。銃マニアで危険な雰囲気で女性から嫌われていたようなので、特に女生徒と女性教師を殺害のターゲットにしたという。犯人の高校生は警察に追われて最後は自殺した。この事件が起きた時もメルケル首相が現場に駆けつけて、事件の関係者を励ました。

 

こちらが「ヴィネンデン銃乱射事件」のウィキペディアの説明。

 

ja.wikipedia.org

ドイツのテレビニュース番組ではドイツとヨーロッパの政治経済ニュースが主に報道される。ドイツはEUの主要加盟国なので、それらのニュースを報道するだけで1時間近くかかる。

 

それではドイツではどういうことがニュース番組で報道されるのかというと、主に政治経済ニュースと国際情勢のニュースである。政治経済ニュースは今ならメルケル首相とドイツ連邦政府のコロナ対策とか、各政党の支持率などである。

 

ドイツは戦前のワイマール共和国時代に弱小政党が乱立して、ヒトラーのナチス党が民主的に選挙で国民に選ばれてしまった失敗から「戦う民主主義」という政府なので、選挙で全体の5%以上を得票した政党のみが国会に議席を持つことができる。全体の5%以上の得票率の政党が40以上の議席を持つことができるのである。これは1議席2議席しか国会に持たない政党に政党助成金を使うのは税金の無駄使いであり、また、そういう弱小政党の意見を聞いていると国会の審議に無駄に時間がかかるからである。だから、日本の社民党、れいわ新選組のような弱小政党はドイツでは国会に議席を持つことができない。僕はこのようなドイツの選挙制度の方が、日本よりも合理的で良い制度だと思う。

 

それで、ドイツはEUに加盟しているので、ヨーロッパの国際情勢の報道にはかなりの時間が割かれる。フランス、イタリアなどの同じEU加盟国の政治経済情勢から、EU加盟と共通通貨のユーロ使用を申請している国々の政治経済情勢のニュースが報道される。もちろん、日本と同じように世界唯一の超大国であるアメリカの政治と戦争のニュースも報道される。アメリカの「正義の戦争」が必ず報道されるのは、世界中どこの国も同じようである。(苦笑)

 

下はドイツZDFの[heute](ホイテ。今日という意味)というニュース番組の放送。ZDFとARDは日本でいうとNHKのような国営放送である。でも、NHKと違うのはコマーシャルが流れることがあること。下の難民ニュースの報道で思い出したが、今はコロナで移民と難民の移動はないが、金持ちの西ヨーロッパの政府は増え続けるアラブ、アフリカからの移民と難民に頭を痛めており、これが右翼政党の台頭に繋がっている。だが、ドイツではメルケル政府は左翼的な政策を取っており、移民と難民を受け入れる政策である。

 

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ドイツ国営放送のheuteというニュース番組は日本でも見ることができるが、1997年に神戸で起こった酒鬼薔薇事件のような特殊な事件はドイツでも報道された。

 

ZDFの[heute]というニュース番組はNHKの衛星放送で見ることができるので、僕も20年ほど前からたまに見ているが、事件事故はテレビでは放送されないのだが、1997年に起こった酒鬼薔薇事件は犯人が14歳であり、被害者の首を切断して校門に置いたという異常性からheuteでも報道された。

 

また、同じ1997年にポケットモンスターで激しいフラッシュの点滅シーンがあって、日本でテレビを見ていた数人の子供がひきつけ症状を起こした「ポケモンショック」があった時も、heuteではそのシーンを紹介して、テレビで激しいフラッシュの点滅シーンがあった時はどう対処するべきかについて、専門家に意見を聞いてかなりの時間を割いて報道をしていた。それ以来、日本でもドイツでも記者会見などで多くのカメラのフラッシュの点滅シーンがある時は、注意を促す字幕が出るようになった。

 

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ただし、Bildのようなタブロイド新聞がドイツにもあって、そのような新聞では多くの事件事故と有名人のゴシップ記事が報道されている。でも、僕が会ったドイツ人は他人に起こった事件事故にはほとんど興味がない人が多かった。

 

ここまで書いてきたように、ドイツのテレビニュース番組では事件事故などはあまり報道されず、日本の事件事故も特殊なものしか報道されていないが、新聞ではかなり多くの殺人事件と人身事故が報道されている。ドイツに関係のある人たちが「ドイツの東京スポーツ」と呼ぶ[Bild](ビルト)というタブロイド新聞では、ドイツとヨーロッパの殺人事件と人身事故だけでなくて、ドイツと世界の有名セレブのゴシップ記事などが所狭しと報道されている。だから、良識的なドイツ人は[Frankfurter Allgemeine](フランクフルター・アルゲマイネ)のような政治経済ニュースの記事が多い新聞を読んで、タブロイド新聞は読まない。

 

また、日本では2019年に起きた東池袋自動車暴走事故などの後では、「上級国民」「容疑者を政府が庇っている」などの国民の怒りが爆発したが、ドイツではこのような事故について国民が怒るなどの様子はあまり見たことがない。当然、ドイツでも1年間に多くの事件と事故が起きているはずだが、僕の知り合いである大学教授、弁護士、医者、ビジネスマンなどのドイツ人が、ドイツでの事件事故についてコメントしているのを聞いたことがない。どうやら、ドイツ人は日本人とは違って「自分のことは自分のこと、他人のことは他人のこと」というような考えで、他人が起こした事件事故には無関心な人が多いようだ。もちろん、僕は全てのドイツ人と会話をしてはいないので、他の多くのドイツ人は違っているのかもしれない。