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首相を短期間でやめさせるべきではない。

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菅首相の後に河野と高市のどちらが首相になっても、日本は大して変わらないと思う。「とにかく、今の首相は辞めてほしい」という意見はよくない。

 

日本では今は約1年前に安倍首相に代わって就任したばかりの菅首相が、次の自民党総裁選には出ないことを表明して、たったの約1年ほどで退陣することが決まって、ポスト菅を巡って色んな報道がされている。それで事実上は、河野太郎と高市早苗の一騎打ちなどと報道されてる。しかし、昨年9月に首相になった菅首相は初めから安倍首相が病気の悪化で急に辞任したので、その残りの期間、しかもコロナ禍がますます悪化して、IOCなどの外国の団体の圧力で東京オリンピックとパラリンピックを開催せざるを得ない状況下で首相になったので、初めから貧乏クジを引いたような状況だった。それにもめげずによく1年間も首相をやったのはけっこう立派だったと思う。

 

僕個人の意見としては菅の後に河野と高市のどちらが首相になっても、日本は大して変わらないと思う。その証拠に菅首相が実際に首相を辞めると公言した後の菅政権に対する評価は、世論調査によると「評価できる」と「まあまあ評価できる」を足すと50%を越えており、やはり、「次の後継者は思いつかないけど、とにかく菅政権は終わりにしてほしい」という国民が多かったのだろう。このように次の首相は思いつかないけど、とにかく今の首相は辞めてほしいというような意見は、長期安定政権だった安倍政権の時に「アベガー」と言って、自分の人生が上手くいってないのを安倍首相と自民党政権に八つ当たりしていた連中と全く同じで、政治の空白を作って不安定にするだけなので、こういう無責任な意見を述べるのはやめてほしい。

 

 

ドイツでは1982年以来、コール、シュレーダー、メルケルというふうに、40年間の間に3人の首相が長期安定政権を続けている。その間に東西ドイツ統一、統一通貨ユーロ導入という大変化があったにもかかわらずである。

 

一方でドイツに目を向けると西ドイツ時代まで遡っても、1982年にCDU(キリスト教民主同盟党)のヘルムート・コール政権が誕生してからコール首相は1998年まで16年も首相の座にあり、その間にベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一、東西冷戦終結という難しい出来事と局面もあったが、なんとか難局をしのいで長期安定政権を続けた。1998年に次に首相になったSPD(社会民主党)のゲルハルド・シュレーダー首相も、ユーゴスラビア空爆、統一通貨のユーロ導入、同時多発テロ、EU(ヨーロッパ連合)の権限強化という難しい局面がたくさんあったが、なんとか2005年末までの約8年間首相を続けた。この8年間という任期はドイツの首相の中ではけっこう短い方である。

 

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その後、2005年末にCDUとSPDの大連立(ドイツ政党の右派と左派が連合すること)という難産を経てドイツ初の女性首相であるメルケル政権が誕生したが、この政権も2008年のリーマン・ショック、大量の移民難民受け入れ、アメリカでのトランプ政権誕生のポピュリズムによる右翼政党の躍進、さらに全世界同時に起こったコロナ禍などの難局が山ほどあったが、メルケルが死亡するか難病に罹らない限り、2022年まで首相を務めることが決まっている。写真上はメルケル首相。

 

 

僕の友達と知り合いのドイツ人は「メルケル政権に満足はしてないが、メルケルよりも良い政治家は思い当たらない」と言っていた。

 

それでは、そんなに長期安定政権を続けられるほどメルケル首相は絶大な人気があるのかというと、そんなことは絶対にない。僕のドイツ人友達で弁護士で東北大学に勤務していたSは、既に2011年4月の東日本大震災後に仙台市内のレストランで一緒に食事をした時に、「メルケルの名前なんて聞きたくない」と笑いながら言っていた。テキサスの大学の教授で、6月から8月の夏期間だけ東北大学で研究をしているWも「メルケル政権は嫌いだ」と2011年夏に言っていた。

 

しかし、このドイツ人2人と、2012年9月と2015年5月に僕がドイツに行った時に現地で会った数人のドイツ人も、「でも、仮にメルケルがすぐに辞めたとしても、その次にメルケルよりも絶対に良い政治をできる政治家が思い当たらない」という意見の人が、ほとんどだった。要するに、日本の長期安定政権だった安倍首相の時の「アベガー」と全く同じで、「とりあえず、今のドイツの政治には満足できないので、メルケル首相は辞めてほしい」という意見の人がほとんどだったのだ。

 

一方で日本では40年の間に20人近い首相が乱立している。だから、多くの外国人は日本の首相の名前を知らない。

 

 

それでも、ドイツは西ドイツ時代まで遡っても1982年から2022年までの約40年間に首相はたったの3人という少人数である。一方の同じ第二次世界大戦の敗戦国の日本は、1982年からの40年間に何人の首相が乱立したであろうか?比較的に長期政権だった中曽根、小泉、安倍の3人でも5年半から8年ほどで辞めてるから、40年の間には20人近い首相が乱立したはずである。短命政権の宇野宗佑、羽田孜などはたったの2か月ほどで辞めてる。だから、外国人に「今の日本の首相は?」と質問しても、1999年3月にシュツットガルト近郊のH家にホームステイした時は小渕恵三首相だったが、H家の人は誰も知らなかった。でも、2005年6月に再びH家を訪れた時に日本の首相の名前を質問すると夫人が、「髪が白くて長い首相でしょ?小泉という名前で人気があって優秀な首相らしいわね。知ってるわ」と言っていた。

 

このような体験から僕が学んだのは、日本の政治に不満で首相と内閣の政策が気に入らないといっても、一度決まった首相を1年ほどで変えてしまうのは良くないということだ。そうしないと、世界の人に日本の首相の名前を覚えてもらう前に首相が代わってしまい、国会審議と政局が混迷するだけである。

 

 

ドイツではナチス党を民主主義の選挙で当選させた大失敗から、「戦う民主主義」という選挙を行っており、得票率が5%未満の弱小政党には国会の議席をあげないという選挙を行っている。日本の「社民党」「れいわ新選組」のような弱小政党は国会に議席がないので、首相は大政党の支持を受けて安定した政権を維持できている。

 

 

 

一方のドイツは「戦う民主主義」ということが憲法に規定されてるので、総選挙の際に得票率が5%未満の支持率が少ない政党は議員数が0になる。一方で支持率が5%以上の政党には40人の議席が割り当てられるのである。支持率が5%未満の政党に議席を1つも与えないというのは、そうしないとドイツでは極右のネオナチ政党、東ドイツの共産主義時代を肯定する極左の政党が乱立してしまい、政局が混迷するだけだからである。ドイツの首相と内閣は「戦う民主主義」により安定した議員数が多い政党支持の上に政治を行っているので、長期政権が可能なのである。議員が5人~10人という小政党はドイツにはないので、議会での政党の政策質問の時間も節約することができて効果的な議会運営ができる。

 

ドイツの「戦う民主主義」を日本の議会に適用すると、「れいわ新選組」「社会民主党」という政党は議会での議席数を失うことになる。でも、こんな小さな政党は支持者も少ないので、日本の国会運営を混乱させるだけで大した意味がないと思う。そして、こういう野党は「自民党の首相はすぐに辞めろ、政権交代」と国民に訴えて、一部の狂信的な国民の支持を得て政局を混乱させているだけである。だから、日本に長期安定政権を築くためには、ドイツのような「戦う民主主義」を日本にも導入した方がいいと思う。