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映画「鉄道員(ぽっぽや)」はドイツではヒットしない

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映画「鉄道員(ぽっぽや)」は多くの日本人を感動させた映画だが、仕事一筋の男の物語というのは、恐らくドイツでは全くヒットしないだろう。

 

多くの日本人を感動させた映画に高倉健、大竹しのぶ、広末涼子が共演した「鉄道員(ぽっぽや)」という映画がある。1999年に公開された映画で、僕もこの映画を7月にWOWOWで再放送された時に見て感動して涙を流したが、同時に「こういう仕事が第一という父親の話は絶対にドイツを始めとする欧米諸国ではヒットしない」と思った。

 

ネタばれになるが、この映画は国鉄に就職してからずーっと鉄道員で仕事第一を貫いてきた優しい男と妻と女の子供の話である。本当は優しくい男なのだが、妻が病気で亡くなった時も病院で最期を看取らず、生まれたばかりの女の子(雪子)も気温が低い駅の一部である自分の家の中で寝かせていたので、肺炎を起こして死んでしまう。

 

妻が亡くなった時は妻の遺体と対面した時に同僚の妻が、「憎たらしい。せめて妻の最期の時くらい休暇を取って病院に来るべきだったのに、なんで鉄道の仕事をしてたの?妻の命よりも仕事の方が大事だったの?奥さん本当にかわいそう」と言う。ラストに近いシーンで、赤ん坊の時に亡くなった雪子が霊となって女子高生の姿で現れて、父親役の高倉健が「俺がお前を殺したようなもんだ。仕事に専念していて、不注意にも吹きさらしの部屋にお前を寝かしていたから、お前は肺炎になって死んでしまった」と雪子に言っても雪子の霊は「仕方がないよ。お父さんぽっぽやだもん。雪子は幸せだったよ」と言ってお父さんに抱きつく。

 

 

仕事に集中していて妻が亡くなった時に病院に最期を看取りに行かず、生まれたばかりの赤ん坊を冷たい部屋え寝かせて肺炎にしてしまうような男は、西洋では夫として父親として失格だと思われるだろう。

 

 

絶対にドイツを始めとする欧米では妻の最期を看取らなかったシーンと、亡くなった雪子の霊が仕事一筋の父を許して父に感謝するというシーンが理解されないだろう。いや、令和の日本人にも理解されないかもしれない。今は男も育児休暇を取る運動が盛んになっているので、この映画で描かれている仕事一筋の男は昭和時代のメンタルの男と言えるだろう。東日本大震災の後も1年ほど仙台の東北大学に勤務していた友達のドイツ人も、地震の後にドイツに帰った妻が2011年夏にドイツで出産した時は、2週間ほどの休暇を取って妻の出産に立ち会った。その後、11月に彼と一緒にスタジアムにベガルタ仙台の試合を見に行ったが、その時も、「クソッ、妻と新しく生まれた子供と一緒にいられないなんてつまらない」と言って怒っていた。彼はモラルがとても高くて、ひいきのサッカーチームが負けた時以外はあまり怒らない性格なのだが、珍しいほどに感情をあらわにしていらいらしていた。

 

映画「鉄道員(ぽっぽや)」をドイツを始めとする欧米で上映すると、「典型的なWorkaholic(仕事中毒)の日本人男の話だ。家族に対する愛情が全く感じられない。妻が危篤の状態で亡くなる時くらい、有給休暇を取って病院に駆けつけて妻の看病をするのが西洋人の常識だ。また、鉄道の仕事に夢中で、生後間もない赤ん坊の世話をロクにしないなんて父親失格だ。最後のシーンで亡くなった雪子が女子高生の姿で現れたなら西洋なら、『お父さんが私を殺したんだ!なんで、お父さんは子供の面倒も見れなかったの?お父さんを絶対に許さない!』と叫んで、鉄道員のお父さんの首を絞めるかもしれない」などという感想を述べて、この映画を見ても全く感動しないどころか、昔の日本人男性の仕事中毒ぶりに呆れる人がかなり出るだろう。

 

この映画が封切られたのは1999年だが、僕がシュツットガルト近郊に住むH家にホームステイをしてドイツ語を学んだのも1999年だった。その時にH家の夫妻に聞いた話では、ドイツでは全ての会社員は1年間に40日間の有給休暇を取ることができて、40日間未満の有給休暇しか与えなかった会社の経営者は社員から訴えられてしまう。下手をすると、経営者の職を失って刑務所行きだという。労働組合が強いドイツではこれほど社員の権利が強くて、日本にあるようなブラック企業、過労死というのはまずあり得ない。だから、この映画に描かれてる高倉健の勤務先の国鉄とJR北海道というのは、西洋人からするとあり得ないほどにブラック企業ということになる。

 

家族を大事にするということは、ドイツではヒトラー総統がいたナチスドイツ時代も守られており、ヒトラーはナチス親衛隊員が守るべき規則として、「優秀な親衛隊員は家庭にあっては良き夫であり、良き父親でなければならない」という規則を定めている。この規則はナチスドイツ軍の戦況が悪化するまではきちんと守られていたようで、ドイツ軍と親衛隊の将校は休暇を取って家族と一緒に過ごしたことが戦記にも書かれている。

 

映画「鉄道員(ぽっぽや)」をハリウッドのアカデミー賞外国語映画部門へのノミネートを打診したが、「仕事一筋の日本男性の物語は西洋人には理解できない」と言われて断られたようだ。

 

en.wikipedia.org

 

上のリンク先は映画「鉄道員(ぽっぽや)」のウィキペディア説明サイトだが、日本語ではかなり長い説明があるのに、英語では簡単な説明で終わっている。また、この年のハリウッドのアカデミー賞外国語映画賞部門へのノミネートを打診したが、断られたことが書かれている。やはり、仕事一筋の日本男性の話というのがアメリカの映画人には受け入れられなかったのだろう。

 

 

以上、今日のブログ記事では日本の名作映画「鉄道員(ぽっぽや)」が日本では感動する話だけど、ドイツを始めとする西洋ではあまり感動する人がいなくて、映画はヒットしないだろうということを書きました。仕事一筋の男に感動する日本人と、男は仕事だけでなくて有給休暇を取って家族と一緒に過ごすのが当然という西洋人のメンタルの違いが、浮き彫りになったと思います。でも、日本人も数年後には男も育児休暇を取って有給休暇を取るのが当たり前になって、「鉄道員(ぽっぽや)」を見ても誰も感動しなくなるかもしれません。(苦笑)