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号泣した戦争映画;「時計台の騎馬像」

 

 

「時計台の騎馬像」(原題 The Little Riders)という1996年のアメリカ制作のテレビ映画を見たことがあるだろうか?僕は確か21世紀になったばっかりの頃に、この名作テレビ映画を見たことがある。そして、僕は1997年9月と1999年春に第二次大戦時にドイツ兵だったおじいさんたちとドイツ語で親しく談笑をしたことがあるので、この映画を見た後には号泣して涙が止まらなかった。そして、「CGでできた戦闘アクションシーンが満載のくだらない戦争映画なんかよりは、よくできたシナリオの戦争ドラマ映画こそが映画館え封切られるべきだ」と強く思った。

 

 

第二次大戦でドイツ兵だったおじいさんたちとドイツ語で会話をした経験があるので、「時計台の騎馬像」という戦争映画を見たら涙が止まらなかった。

 

 

 

以下、ネタバレになるけど「時計台の騎馬像」を詳しく紹介する。本当によく出来たシナリオである。

 

第二次大戦が始まったばかりの1940年のオランダ地方都市が舞台。母がオランダ人で父がアメリカ軍航空隊員であるアメリカ人の10歳の娘ジョアン(ノーリー・ソートン)は、母の実家があるオランダ地方都市を旅行で訪れていた。1940年春でドイツ軍がオランダを攻撃するというニュースが流れていたので、母は都会のロッテルダムに自分と娘用の帰りの船のチケットを手配しに行く。ところが運悪くドイツ軍のオランダ侵攻が始まってしまい、ドイツ空軍によるロッテルダム大空襲があって母は死んでしまう。

 

その後は母を亡くしたジョアンは米軍航空隊員の父が自分を救出してくれることを信じて、ナチスドイツ軍占領下のオランダ地方都市で母方の祖父母と一緒に暮らすこととなった。祖父を演じているのがイギリス人だがなぜかドイツ軍人を演じることが多いポール・スコフィールドである。

 

2年ほど経つとナチスドイツによる軍政を厳しく行うために、小さな都市にまでドイツ軍人と将校がやって来た。いつものように悪役が親衛隊将校であり、司令官である親衛隊大尉を演じているのがマルコム・マクダウェルである。この人はいつも悪役が多い。そして、ドイツ国防軍の陸軍中尉が部下として配属されている。僕のようなドイツ軍に詳しい人なら?と思うのが、「親衛隊の治安部隊なのに国防軍将校と兵士が部下にいるのか?それは絶対にあり得ないだろう」ということ。でも、ハリウッド映画の設定だから仕方がない。

 

そして、やはり国防軍中尉は東部戦線でソ連軍と戦ったことのある勇敢で優しい人。こういう親衛隊軍人が冷たくて国防軍軍人が優しいという設定も、いかにもドイツ軍ものの戦争映画である。(苦笑)優しい中尉はジョアンの家に来て、「この家には空いてる部屋があるな?その部屋で私は生活することにする。もちろん、生活費は軍が払う」と言って、ジョアンの家に滞在することになる。ジョアンも祖父母も「ドイツ軍人に私たちの生活を壊してもらいたくない」と言って反対するが、中尉はこれは命令でありもう司令部で決まったことだからと言って、強引にジョアンの家に滞在する。

 

ジョアンはドイツ軍中尉の妻の写真を見せてもらったり、中尉と色々と会話をしているうちに仲良くなっていって、一緒に外で遊んだりするようになる。それを見たジョアンの小学校の友達が「ドイツ軍人なんかと仲良くするな!ドイツ軍がお前のお母さんを殺したことを忘れたのか?」と問い詰めて、母がドイツ軍に殺されたことを思い出したジョアンは、テーブルにあった中尉と妻が笑って写っている写真をクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てる。当然、帰宅した中尉は激怒して「これをやったのは誰だ!?」と質問する。「ジョアンがやりました。母がロッテルダムの空襲で死んだので、ドイツ軍を恨んでいるのです。でも、ひどいことをしないでください」と祖父が答える。「あんたの妻も死ねばいいのに!」と怒鳴るジョアン。「もう死んだよ。アメリカ軍の空襲で妻は死んだんだ」と答える中尉。ジョアンと祖父母は唖然として黙ってしまう。

 

次の日、酔っぱらって二日酔いの中尉が食堂に朝飯を食べに来るとジョアンが音痴な歌を歌っている。「頭痛がするんだよ。その変な歌はやめれくれないか?」「『あんたの妻も死ねばいいのに』なんて言ってしまてごめんなさい。ドイツ軍人も色々と苦労してるのね」。その後、中尉はいかに妻が美しくて素晴らしい女性だったかを話す。ジョアンは中尉との間に友情みたいなものを感じるのだった。

 

 

やはり、ドイツ軍親衛隊軍人は残酷で国防軍軍人は優しいというのは、いつものステレオタイプのドイツ軍人の描き方だが、それでもこの映画には憎しみを越えてドイツ軍人と敵国民が相互理解をするという設定がある。

 

 

一方で親衛隊将校が司令官である軍司令部では、戦局がナチスドイツにとって悪化するにつれて「もっと軍政を厳しく」という意見が出ていた。そこで、「この町の時計台には千年ほど前から飾られている騎馬像がある。この町でも反ナチスレジスタンス活動が行われているが、この町の象徴ともいえる騎馬像をドイツに持ち去ってオランダ人のモラルを下げよう。それに、騎馬像は銅で出来てるから兵器の材料にもなる」ということが決定された。

 

この情報を入手した町のレジスタンスは何とか騎馬像を隠そうと計画する。実はいうとジョアンと祖父母もレジスタンス活動に参加しており、ジョアンの家の屋根裏に隠すことになる。レジスタンスはドイツ軍治安部隊より先に騎馬像をジョアンの家に持ち去るが、重いので家の屋根裏まで運ぶ段階で苦労する。そこにドイツ軍中尉が帰ってきて通報せずに騎馬像を隠すのを手伝ってくれた。

 

数日後いよいよ戦争は最終局面となり、ドイツ軍治安部隊はドイツへ撤退することになる。そこで司令官の大尉がすべての町民を集めて、「時計台の騎馬像を隠したレジスタンスがこの中にいるな?罰として1人を銃殺する」と言う。そして、ジョアンのおじいさんを群衆の中から選んで、「お前を銃殺刑にする。中尉、このジジイを撃て」と命令する。中尉は戸惑うが命令なので仕方がない。おじいさんに「撃たれて倒れろ、老いぼれめ!」と言ってピストルで心臓を撃つ。すぐに軍用車両に乗ってドイツ軍人は町を去っていく。「人殺し!あんたなんか大嫌い!」と中尉に罵声を浴びせるジョアンと、泣き叫ぶおばあさん。オランダ人たちもドイツ軍人に罵声を浴びせる。

 

ところが倒れて死んだはずのおじいさんは生きていて、「中尉が『倒れてくれ』」と小声で言ったんだ。ワシは言うとおりにしたんだよ」と笑いながら言う。次のシーンは連合軍の爆撃の中、ドイツへ撤退するジープでの中尉と運転手の会話。中尉はピストルから空の薬きょうを取り出してニヤリと笑う。「空砲だったのですか?本当に撃たなかったのですね。頭がいいですね」と運転手は言って、中尉は大嫌いな親衛隊司令官を騙せたことを喜ぶ。ところが最悪なのが次のシーン。連合軍の空襲で負傷したドイツ兵が破壊された中尉のジープを覗き見ると、オランダ人に優しく接していた中尉も運転手も血を流して戦死していた。

 

そして、ラストシーンでは戦争が終わってアメリカ軍航空隊パイロットの父がジョアンを迎えにくる。最後はある程度のハッピーエンドである。でも、優しい中尉もドイツに生還していれば完全なハッピーエンドだろうけど、実際にはそう上手くはいかないのである。

 

 

「時計台の騎馬像」は戦闘シーンがない反戦ドラマである。アマゾンで千円以下でDVDが買えるので、映画好きの人には是非一度は見てもらいたいテレビ映画である。

 

 

僕が「時計台の騎馬像」という映画を見て号泣したというのは、ドイツにいた時に第二次大戦時はドイツ兵だったおじいさん数人とドイツ語で会話をしたから。みんな優しくて日本人の若者と会話をするのを楽しむ人たちだった。そのおじいさんたちの姿がラストで戦死したドイツ軍中尉と重なるから、この映画を見た後で涙が止まらなかった。

 

この映画は、今アマゾンで調べてみたら744円からDVD(ブルーレイではない)が発売されているので、僕のこの記事を読んで見たくなった人は是非見てほしい。ドイツ軍人を絶対的な悪役としては描いてないので、とてもよくできたテレビ映画だと思う。