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歴史小説映画の嘘はどれくらい許せるのか?

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歴史小説映画には必ず話を面白くするために作家が織り込んだ嘘が含まれているが、その嘘によって悪役にされたり無能者と描かれる人物が必ず存在する。

 

 

歴史小説、歴史映画ドラマというのは必ず嘘を書いて脚色するのが当たり前であるが、かつて僕は映画「八甲田山」について次のような記事を書いたことがある。

 

deutschland-lab.hatenablog.com

 

また、YOUTUBEにも次のような動画を載せて、「映画『八甲田山』と『二百三高地』は嘘の話であることを説明する」と動画で説明をした。

 

そうしたら、次のような批判のコメントがついた。

歴史小説、映画、ドラマは嘘の話であることをみんな知っていて読んだり見たりしてるのに、それをわざわざ嘘の話だからこの歴史映画はくだらないなどと動画で説明するして得意になってるとか、あなたはバカじゃないのか?」

僕はこのコメントが不愉快だったから、この批判を書いたユーザーをコメント欄で非表示にしたが、ただ、ここで問題なのは歴史小説ドラマ映画の「嘘」はどこまで許されるのかということである。

 

もちろん、歴史的事実を土台として作られた小説映画ドラマは嘘の話、エピソードを織り交ぜて話を面白く興味深くしているが、中にはこの歴史小説映画が全部事実を描いていると勘違いをする人が出て来ることである。

 

 

新田次郎の書いた「八甲田山死の彷徨」は映画「八甲田山」の原作本となったが、山口少佐(映画で演じていたのは三国連太郎)が勝手に行軍の指揮を執って、神成大尉(北大路欣也)の作成していた雪中行軍計画を壊して部隊が遭難したというのは嘘である。

 

 

映画「八甲田山」が封切られた時には、事実では日本陸軍全体に雪中行軍への認識が甘くて、別に民間人の案内人など雇わなくても、青森から田代温泉までの20キロの道は踏破できるだろうと軽く考えていたことが行軍が失敗した原因である。だが、映画だと神田大尉(事実では神成大尉)が事前に案内人を雇ったりしてちゃんと準備をしていたのに、山田少佐(事実では山口少佐)が案内人を追い返してしまったり、神田大尉の言うことを無視して、勝手に行軍の指揮を執り始めてしまった部隊を迷走させてしまったというふうに描かれている。これは新田次郎の「八甲田山死の彷徨」という歴史小説を忠実に映画化したからである。

 

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ネット上を探していたら、丁度、新田次郎の書いた小説「八甲田山死の彷徨」と映画「八甲田山」は嘘の話であり、実際の八甲田山での青森第5連隊の遭難の事実は小説と映画とはかなり違ったものであることを説明する本が出版されていた。

 

だから、やはり歴史小説映画で問題になるのは、事実の歴史をどこまで脚色して面白く興味深い話にすることは許されるのかということである。八甲田山の遭難事件を例にとると、小説と映画では山口少佐が勝手に部隊を迷走させたから部隊は遭難したというふうに描かれているが、これでは山口少佐の遺族、子孫から「八甲田山死の彷徨」を書いた新田次郎が「名誉棄損」で訴えられたら、間違いなく新田の負けになるだろう。山口少佐のことを山田というふうに名前を変えてはいるが、山口少佐を悪役として描いているのはみえみえである。

 

映画「二百三高地」でも乃木大将と第三軍指令部を無能と描いているが、これはこの映画の原作である歴史小説坂の上の雲」で、司馬遼太郎が個人的に乃木大将が嫌いだったので、そのように描いているのである。だからネットでは、「乃木家は長男と次男が日露戦争で戦死をしたので断絶をしているが、乃木家の親戚から司馬が名誉棄損で訴えられたら、間違いなく司馬が負けて謝罪をして慰謝料を払うことになるだろう」などと書かれている。司馬遼太郎はもう亡くなっているから、司馬の子孫が謝罪と慰謝料を払うこととなるだろうけど。

 

 

今はネットがあってウィキペディアに歴史の事実が詳しく説明されているから、下手に歴史小説と映画を面白くするためにフィクションを織り交ぜると、「この作品は嘘を書い話を面白くしている」と指摘されてしまう。大河ドラマの「どうする家康」も半分以上が嘘の話である。

 

 

それで、今はネットがあって歴史小説、歴史映画などを作って、その中に話を面白くするために嘘が描かれていたりすると、すぐにネット上で関係者から「それは嘘だ。話を面白くするためにこの映画(あるいは小説)には嘘が描かれている」と、ネットで歴史学者、アマチュア歴史家などに厳しく指摘されてしまう。そのせいなのか、最近は昭和時代、平成初期の頃に比べると歴史小説映画などは少なくなってる気がする。今はウィキペディアなどがあって、日本語版、英語版などのウィキペディアで冷静に事実がネットに書かれているから、歴史小説映画に嘘を織り交ぜて話を面白くしようとするとすぐにバレてしまう。

 

今、大河ドラマでやっている「どうする家康」も家康と瀬名姫が仲睦まじい夫婦だと描かれていたが、これにも大いに疑問が湧く。ウィキペディアを読むと瀬名姫は今川家重臣の娘なので、桶狭間の戦いの後に今川家を裏切って独立をして、今川義元を打ち取った織田信長を同盟をして今川領を勝手に自分の領土とした家康のことを嫌っていたというのが通説である。しかし、瀬名姫に関する記述は江戸時代になってから「悪妻」と書かれている書物ばかりなので、本当の瀬名姫がどういう人だったのかは今では推測でしかわからない。だから、大河ドラマでは仲睦まじい夫婦だったと描いたのだけど、これも推測でしかない。

 

今はネット上に歴史の新事実が発見されてどんどんと書かれている時代なので、歴史小説映画などは本当に作りにくい時代となったと思う。だから最近は「アシガール」「信長のシェフ」のような今の若者が戦国時代にタイムスリップをするという、始めから嘘とわかるような漫画、ドラマが作られているのかもしれない。(笑)